院長コラム
「検査で異常なし・・・でも痛い」“感じすぎる腸”過敏性腸症候群は内蔵知覚過敏
「内臓知覚過敏」とは?
内臓知覚過敏(Visceral Hypersensitivity)とは、内臓(胃・腸など)がわずかな刺激にも過敏に反応し、痛みや不快感を過剰に感じる状態を指します。特に消化管領域では、機能性消化管疾患の根本的なメカニズムと考えられています。
なぜ“感じすぎる腸”が問題なのか?
通常、人の腸は食物やガスが移動することで圧力や膨張を感じますが、それを「痛み」や「強い不快感」として感じないように脳で信号強度が調整されています。
ところが、内臓知覚過敏のある人では、この調整がうまくいかず、以下のような症状をきたします。
- わずかなガスでも「腹部膨満感」「痛み」として感じる
- 普通の食事量でも「つかえ」「吐き気」として感じる
- 排便後でも、「残便感」「痛み」として感じる
IBS(過敏性腸症候群)と内臓知覚過敏
過敏性腸症候群(IBS)は、まさに内臓知覚過敏の代表的疾患の一つです。
症状 | 原因との関係 |
---|---|
排便に伴う腹痛 | 腸の動きやガスに対する過敏な反応 |
ガスの張り・違和感 | 腸内のわずかな膨張に過剰反応 |
排便してもスッキリしない | 感覚処理の異常による“残便感” |
実際に、健康な人では苦痛として感じない腸の圧刺激でも、IBSの患者では痛みを訴えるという研究データもあります。
どこで“感じすぎて”いるのか?──脳と腸の関係
内臓知覚過敏の原因は「腸そのもの」だけでなく、腸と脳の感覚回路=「腸脳相関(brain-gut axis)」の異常によって説明されます。
- 末梢神経が敏感になる
- 脳(中枢)での“痛みのブレーキ”が効かなくなる
- ストレス、不安が、知覚感覚過敏をさらに助長する
“腸で感じて、脳で増幅される”という悪循環が、症状を長引かせていると考えられています。
内臓知覚過敏は目に見えない感覚の病
検査で「異常なし」と言われることほど辛いことはありません。
診断がついても、症状が変わらなければつらいことに変わりはありませんが、診断がつくことで人間は安心できます。
目に見えない不安、診断されないストレスが痛みの知覚過敏を増幅します。
腸だけでなく、脳やこころのケアも含めて治療していくことが大切です。