院長コラム
肝炎ウイルスはもう怖くない?撲滅へ向かう感染症と残された課題
かつて「沈黙の臓器」として恐れられた肝臓。中でもB型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝疾患は、日本における肝硬変・肝がんの大きな原因でした。
しかし、現在、C型肝炎はほぼ治る病気となり、B型肝炎もワクチンと抗ウイルス治療の普及により新規感染は激減しています。日本では「肝炎対策基本法」に基づき、無料検査や特定健診が広く行われ、高齢者を中心とした感染者の拾い上げが進み、医療者が新規で遭遇する機会は年々減少傾向にあります。
罹患率(ヘリコバクターピロリ菌・脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)との比較)
| 疾患 | 推定罹患率(日本) | 主な対策 | 医療現場での遭遇頻度 |
|---|---|---|---|
| B型肝炎 | 約0.3〜0.6% | ワクチン、抗ウイルス薬 | かなり稀(高齢者中心) |
| C型肝炎 | 約0.3%以下 | DAA(直接作用型抗ウイルス薬) | 非常に稀 |
| ピロリ菌感染 | 約30%(高齢者中心) | 除菌治療、胃がん検診 | やや高頻度 |
| MASLD(脂肪肝) | 約25〜30%(日本人成人) | 食事・運動指導、糖代謝管理 | 日常診療で非常に頻繁に遭遇 |
同じ「がんのリスク因子」でも、ここまで違う!
B型・C型肝炎ウイルス、ピロリ菌は、いずれもがんのリスク因子として科学的に証明されています。しかし、その罹患率と遭遇頻度には歴然とした差があります。
特に肝炎ウイルスは、公衆衛生レベルでの撲滅戦略により感染者自体が激減しており、もはや希少疾患に近づいています。
さらに重要なのは、肝炎ウイルス感染者がすべて肝がんになるわけではないという点です。
「発がんの掛け算」で考えると、現代では極めて稀な疾患
感染率0.3%×生涯発がん率10〜20%では、全体として肝がんに至る患者は非常に限られています。
つまり、感染者が少ない × 発がん率も高くない → ウイルス性肝炎からの発がんは“極めて稀”ということです。
このような背景を踏まえると、「肝炎ウイルス」を注視する時代から「脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」などの生活習慣病を注視する新しい時代にシフトしていることは明白です。
実際の診療現場では…
日常診療や健診で最もよく見かける肝疾患は、圧倒的に脂肪肝(MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)です。背景に肥満と、代謝機能障害疾患(糖尿病・高脂血症・高血圧)があり、健診で肝機能異常(ALT上昇、γGTP上昇)超音波検査で脂肪肝を指摘されたことがある方です。このような患者さん(潜在的にMASLDのカテゴリーに入る方)はなんと2000万人以上と言われています。
肝炎ウイルスの拾い上げは過去のものとなりつつある今、脂肪肝(MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の拾い上げが最も大切だということがよく分かると思います。
MASLDの拾い上げがもっとも行われているのは病院や診療所ではなく、健診施設です。
当院は健診も診療も行っているため、積極的にMASLD患者さんは働きかけをおこなっています。