院長コラム

女性のメンタルヘルスと腸内細菌


現代は共働き世代も多いこともあり、働く女性は、出産、育児、産休育休、職場復帰のタイミングで、生活スタイルが激変します。

都市部では特に核家族化により夫婦のみでの育児が増え、両親からの十分なサポートを得られない状況に加え、新型コロナウイルス感染症の流行以降、コロナ禍での人との相談の場を失ったことで、日本では母親の28.7%が産後うつ(産後クライシス)を発症しているとの報告があります。

医学的にも育児ストレスは、精神疾患および児童虐待の危険因子であり、母親の精神疾患が児のメンタルヘルスや認知発達に悪影響を及ぼすとされてます。

今回は女性のメンタルヘルスと腸内細菌叢の話題です。
腸内細菌叢は身体疾患に加え精神疾患にも関与することが知られています。

産後女性における腸内細菌叢と身体的および精神的健康との関連についての日本より最新の報告(Commun Biol2024; 7: 235)がされましたので、その話題に少し触れてみたいと思います。

この研究では、全国の保育園・幼稚園に通園する0~4歳児の母親で身体疾患および精神疾患がない339例(平均年齢34.66±4.81歳)を対象に育児ストレスを評価して、腸内細菌との関連を調べています。

結果、短鎖脂肪酸の産生や抗炎症に関連する菌(Blautia SC05B48、Clostridium SY8519、Collinsella aerofaciens)、エストロゲン様作用を持つエクオール産生に関連する菌(Eggerthella lenta)などが、ストレスに対応する力(心的レジリエンス)、幸せホルモン(オキシトシン)の個人差と部分的に相関関係がみとめられました。

産後うつになりやすい母親(育児ストレスが強い母親)は腸内細菌叢の多様性が低下しており、ストレス対応力が高さには、短鎖脂肪酸産生や抗炎症に関わる腸内細菌、ストレス対応力の低さにはエクオール産生菌が関連していることがわかりました。

今後の医学研究で、産後うつにならない、産後クライシスにならない、出産前腸活に必要なものがわかってくると思います。

また研究が進んだらご報告させていただきますね。