院長コラム

血液型を科学する O型は膵がんが少ない?

血液型とSNP遺伝子多型から見える「体質」の話

血液型と病気の関係については、昔からさまざまな話題があります。
その多くは根拠が乏しいものですが、近年、膵がんに関しては血液型、とくにO型との関連が、遺伝学的な研究から比較的しっかり示されるようになってきました。

複数の大規模疫学研究では、O型の人はA型、B型、AB型の人と比べて、膵がんの発症リスクが低いことが報告されています。差は「極端」ではありませんが、統計的には一貫しており、偶然とは考えにくいレベルです。では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。

この背景として注目されているのが、ABO血液型遺伝子座に存在するSNP(一塩基多型)です。
SNPとは、DNA配列の中で一文字だけが人によって異なる遺伝的な違いのことを指します。
ABO血液型は、赤血球の表面に存在する糖鎖構造を決める遺伝子によって規定されていますが、この糖鎖は血液だけでなく、消化管や膵臓の上皮細胞にも発現しています。

A型やB型では、特定の糖鎖修飾が存在することで、慢性炎症の起こりやすさや、細胞間接着、免疫応答の在り方がO型と異なると考えられています。
膵がんは、慢性炎症から線維化、免疫微小環境の変化と深く関係するがんです。
そのため、こうした微妙な体質差が、長い年月をかけてリスクの差として表面化する可能性が考えられています。

また、ABO遺伝子座は、血液型だけでなく、血中の炎症マーカーや凝固因子、細胞接着分子の発現とも関連していることが知られています。
O型では、血栓形成や慢性炎症に関与する因子が比較的低い傾向があり、これが膵がんリスク低下の一因ではないかと推測されています。

ただし、膵がんの最大のリスク因子は、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、加齢などであり、血液型はあくまで多因子の中のひとつに過ぎません。
O型であっても膵がんになる方はいますし、非O型でも一生発症しない方の方が圧倒的に多いのが現実です。

血液型やSNPの話が教えてくれるのは、人の体は、目に見えない遺伝的背景の積み重ねでできているという事実です。病気は突然起こるように見えて、実際には体質、生活習慣、環境因子が長い時間をかけて影響し合った結果として現れます。

遺伝情報は変えられませんが、生活習慣は変えることができます。
血液型を知ること自体が予防になるわけではありませんが、こうした研究は、将来のリスク評価や個別化医療につながる重要なヒントを与えてくれていると考えております。