院長コラム

難治ながん(膵がんについて)

膵がんは医学の進歩した現代においても早期発見と根治の難しいがんのひとつです。
2023年のがん罹患者数(かかる人)は男女合わせると約4万5000人(国立がん研究センター、がん情報サービス)になり、大腸、肺、胃、前立腺、乳房に続き、6番目ですが、死亡数の順位は約4万人で、肺、大腸、胃に続き4番目になります。
ここで注目すべきは、罹患者数と死亡数がそれほど変わらない点、すなわち、なると助かることが難しいガンである点です(ちなみに、専門である大腸がんは罹患者数約16万人、死亡者数5.4万人、胃がんは罹患者数約13万人、死亡者数約4.1万人です)
罹患者数と死亡者数がそれほど変わらない理由のひとつに、早期発見が難しいこと、外科治療できる症例が少ないこと、治療薬の選択肢が他のがん腫に比べて限られていることなどが挙げられます。

現在日本のがん検診の対象は、胃がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がん、肺がんに限られており、残念ながら膵がんは検診の対象ではありません。
広島県尾道市では2007年から中核病院と地域クリニックが連携して、膵がんの早期発見を目的とした「膵癌早期診断プロジェクト」を展開しています。プロジェクトにより尾道市の膵がん5年生存率は約20%に改善し、全国平均の約8%を大きく上回ることになりました。

方法は、膵がんリスクの高い方*にクリニック(診療所)で腹部超音波検査(腹部エコー検査)を行います。次に検査でひっかかった人に対して、総合病院でCT、MRCP(MRIを用いた膵・胆道の評価)、超音波内視鏡検査(EUS)などを行い、がんの有無を検討する方法です。
画像検査でがんが疑われる症例に対しては、EUSガイド下穿刺吸引細胞組織診(EUS-FNA)や内視鏡的膵胆管造影(ERCP)による組織診断まで行います。

*膵がんリスクの高い方

・血縁者が膵臓がん、あるいはそのほかのがんにかかっている(がんの家族歴)
・画像検査で膵のう胞や膵管拡張がある
・膵炎などの膵臓の病気になったことがある
・50歳以降に糖尿病を発症した、あるいは治療中の糖尿病の急激な悪化した

実は、膵臓の病気を調べるのに万能な検査法はありません。
複数の検査方法を組み合わせて診断にたどり着くことも稀ではありません。
それぐらい診断が難しい臓器です。

CT,MRIは機器をおけるスペースとコストがかかります。診断能力は機器の性能に大きく依存します。EUSは侵襲(患者さんの負担)が大きい検査法です。

腹部超音波検査はクリニックでできる、安全かつ放射線被ばくがない検査法です。
体への負担がほとんどないため、簡単に何度でもできるのはとても大切なメリットです。

院長は膵がんを減らすため、大学病院や海外の病院で超音波内視鏡検査(EUS)を10年以上経験があります。早期がん症例も多数発見してまいりました。

早期がんの発見契機(きっかけ)は症状ではなく、画像の小さな異常です。
きっかけはいろいろありますが、膵がんリスクが高い方は一度超音波検査を受けてみてはいかがでしょうか?