院長コラム
アスリート特集 運動誘発性リーキーガットについて
運動は健康に良いという事実は、間違いありません。
しかし、トップアスリートや長距離ランナーのように極限まで身体を追い込む人では、運動負荷が腸にダメージを与えていることをご存じでしょうか。
近年、スポーツ医学で注目されているのが運動誘発性リーキーガット(Exercise-induced Leaky Gut)です。
腸の粘膜にはタイトジャンクションという細胞同士をつなぐ構造があります。
これは、栄養は吸収しながらも、細菌や毒素を体内へ侵入させないの関所です。
しかし、長時間・高強度の運動では状況が変わります。
マラソンやトライアスロンでは、筋肉へ血液を優先的に送るため、腸への血流が30~80%も低下することがあります。さらに深部体温の上昇や脱水が加わることで腸粘膜は酸素不足となり、このタイトジャンクションが緩みます。その結果、本来は腸内に留まるべき細菌成分や毒素(LPSなど)が血液中へ漏れ出す状態、いわゆるリーキーガットが起こります。
すると免疫細胞は異物の侵入と判断し、炎症性サイトカインを放出します。
レース後に発熱、強い倦怠感、食欲低下、胃腸症状が出る選手がいるのは、この全身炎症反応も一因と考えられています。
さらに、リーキーガットは鉄不足とも深く関係します。
腸粘膜が障害されると鉄の吸収効率が低下し、運動で増加するヘプシジンというサイトカインの影響も重なって、フェリチンが低下しやすくなります。鉄補充を行っても、一向にフェリチンが上がらないという選手の中には、腸の状態が原因となっていることも少なくありません。
また、腸は全身の免疫細胞の約70%が集まる免疫最大の臓器です。
遺伝や環境など多くの因子が関与しますが、リーキーガットが慢性化して免疫バランスが乱れると、炎症性腸疾患、関節リウマチ、自己免疫性甲状腺疾患、アトピー性皮膚炎などの自己免疫性疾患の発症の引き金になる可能性が示されています。
腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の乱れも重要です。
善玉菌が減少し、炎症を促進する菌が増えることで、腸粘膜はさらに傷つきやすくなります。
近年では、競技力向上にも腸内環境が重要であることが世界中で研究されています。
リーキーガットを防ぐためには、十分な水分補給、暑熱対策、過度なNSAIDs(痛み止め)の使用を避けること、適切な糖質補給、十分な睡眠、発酵食品や食物繊維を含むバランスの良い食事で腸内細菌を育てることが基本です。
トレーニングだけでなく、腸を休ませる日も同じくらい重要とかんがえられています。
速く走るためには脚力だけ鍛えるだけでなく、見えない腸力を整えることも、現代スポーツ医学では重要なトレーニングの一つなのです。