院長コラム
「全身の痛み」と「お腹の不調」──線維筋痛症と過敏性腸症候群に共通する“体と心のつながり”
線維筋痛症と過敏性腸症候群
疾患名 | 主な症状 | 特徴 |
---|---|---|
線維筋痛症 | 慢性的な全身の痛み、こわばり、倦怠感、不眠、集中力低下(いわゆる“ブレインフォグ”) | 筋肉や関節に器質的異常がなく、神経系の異常と関連 |
過敏性腸症候群(IBS) | 慢性的な腹痛、便秘・下痢の繰り返し、ガスの張り、腹部不快感 | 腸に炎症や潰瘍などの器質的異常はなく、機能性疾患に分類 |
共通点①:器質的異常がない「機能性疾患」
どちらも、検査では明らかな異常なしという共通点があります。
- 「異常なし」ではあるが、症状は強く生活に支障をきたす
- 「異常なし」と診断されるため、“気のせい”や“ストレスのせい”と誤解されやすい
共通点②:中枢神経系の感受性亢進(中枢性感作)
両疾患とも、「脳・神経の過敏さ」が関与していると考えられています。
- 線維筋痛症では、痛みに対する感受性が過度に高くなる
- 過敏性腸症候群では、腸の刺激(ガスや腸の動き)に対して過剰に反応する
つまり、「痛み」や「不快感」を脳が過剰に感じ取り、抑制できなくなっている状態です。
共通点③:ストレス・自律神経との強い関係
- ストレス、不安、睡眠不足、疲労などは両疾患とも症状の増悪因子
- 自律神経のバランスが乱れると、腸の動きや痛みの感受性に影響するといわれています。
- 線維筋痛症では「交感神経優位」が持続した状態と考えられています。
共通点④:合併しやすい
線維筋痛症の患者さんの約30〜70%がIBS症状を併発しているという報告があります。また、以下のような他の機能性疾患との合併も多く見られます:
- 片頭痛
- 顎関節症
- 慢性疲労症候群
- 間質性膀胱炎
- 起立性調節障害
このように、身体の複数の部位にまたがって「原因不明の症状」が同時に現れるのが特徴です。
共通点⑤:治療は多面的アプローチが基本
アプローチ | 内容 |
---|---|
薬物療法 | 抗うつ薬、鎮痛薬、消化管運動調整薬など |
食事療法 | IBSは低FODMAP食の有用性が証明されている |
心理療法 | 認知行動療法、マインドフルネスなど |
運動療法 | (痛みを増悪させない程度の)軽いストレッチ、有酸素運動 |
睡眠改善 | 質のよい睡眠が、痛みや腸の不調を緩和 |
◆ 線維筋痛症もIBSもわからない痛み・不調、周囲の理解不足”に苦しむ疾患
症状を無理に抑え込もうとせず、“身体と心の両面”からアプローチすること、一人で悩まず、医療従事者とともに自分に合った対処法を見つけることが重要です。