院長コラム
つらい胸やけ。でも胃カメラでは異常はなし──それは“逆流性過敏性食道炎”かもしれません
胸やけがあるのに、胃カメラでは異常なし?
「胸がヒリヒリする」「喉の奥が焼けるよう」「食後に気持ち悪い」「朝起きたら気持ち悪い」……
これらの症状で胃カメラ検査を受けても「特に異常はありません」と言われたことはありませんか?
検査では異常がないのに症状が続くと、「気のせい」「ストレス」と片づけられてしまいがちです。
このような症状の患者さんの中に、逆流性過敏性食道炎(Reflux Hypersensitivity)の方がいらっしゃいます。
逆流性過敏性食道炎とは?
逆流性過敏性食道炎とは、胃酸や胃酸以外の胃内容物の逆流に対して食道が過敏に反応し、胸やけや胸痛などの症状を感じる疾患です。pHモニタリング検査の普及により、診断されるようになった比較的新しい病気の考え方です。
逆流性過敏性食道炎の特徴
- 胃酸の逆流がある
- 胃カメラで異常なし(食道粘膜に明らかな炎症がない:非びらん性)
- 逆流と症状が起こっている時間が関連している
GERD(逆流性食道炎)と機能性胸やけの間の疾患とされており、近年注目されています。
典型的な症状
- 食後の胸やけ
- 喉の違和感
- 声がれ
- 胸痛(非心臓性)
- 咳
- 息苦しさ
症状は睡眠中よりも日中の食後に出やすい傾向があります。
なぜ“感じすぎる”のか?
逆流性過敏性食道炎では、わずかな胃酸の逆流に対して、食道の知覚が過敏になっていると考えられています。
これは、「内臓知覚過敏」と呼ばれる状態で、過敏性腸症候群(IBS)機能性ディスペプシア(FD)と同様に、感覚処理の異常や脳との関係(腸脳相関)が複雑に関与しています。
◆ 診断方法
逆流性過敏性食道炎の診断には、以下の3つの条件が参考になります(Rome IV基準)
- 胸やけや胸部不快感が週1回以上あり
- 内視鏡(胃カメラ)で炎症が確認されない
- 24時間pHモニタリング検査で、逆流と症状に時間的関連がある
※内視鏡(胃カメラ)とpHモニタリングの両方検査することで診断が可能となります。他疾患(バレット食道、好酸球性食道炎、心臓病など)を除外する必要があります。
◆ 治療はどうする?
アプローチ | 内容 |
---|---|
胃酸分泌抑制薬(PPIやP-CAB) | ある程度効果あり |
ヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー) | ある程度効果あり |
(低用量)三環系抗うつ薬 | 感覚過敏の改善に有効(痛み処理に働きかける) |
認知行動療法・マインドフルネス | ストレスが症状増悪に関与している場合に有効 |
生活習慣の改善 | 食後すぐ横にならない、過食・早食いを避ける、カフェイン・アルコール控えめにするなど |
逆流がある=炎症があるではない疾患概念
胸やけの原因は、食道の感受性の問題であるという概念です。
ちょうど、歯の知覚過敏をイメージしてもらえると理解しやすいと思います。
検査で異常がないからといって、つらさを我慢する必要はありません。
経験豊富な専門的施設での多面的な治療により症状改善が見込めるかもしれません。
ぜひ消化器内科専門医、当院までご相談ください