院長コラム

抗生物質が招く様々な心身の不調5

再発感染症とIBS症状 ― 臨床現場から

「副鼻腔炎や中耳炎が繰り返す」「膀胱炎が治っては再発する」こうした再発を繰り返す感染症の患者さんでは、臨床の肌感覚でも腹痛・下痢と便秘を繰り返す・腹部膨満など、IBS様の訴えが多い傾向にあります。

これらの患者さんは再発に伴い抗菌薬が反復投与されがちです。
広域スペクトルの抗生物質の繰り返しの投与により、腸内細菌叢の多様性は低下、短鎖脂肪酸(特に酪酸)産生菌が減少します。
短鎖脂肪酸は腸上皮のエネルギー源でもあり、タイトジャンクションという腸管粘膜バリア機能を保つために非常に重要なものです。

短鎖脂肪酸が枯渇すると、上皮のタイトジャンクションが疎になり、腸管外からのあらゆる刺激が伝わる状態となります。結果、粘膜下神経層が常に刺激され神経伝達物質が過剰となり、腹痛や便通異常が起こりやすくなります。
ディスバイオシスは腸管局所での免疫のブレーキ(制御性T細胞)などの働きを弱め、炎症が持続することで腸過敏性が更に高まります。

特に耳鼻科領域、呼吸器領域、泌尿器領域での再発性の感染症では、マクロライド、セフェム系、ニューキノロン系などの広域スペクトルの抗生物質の反復投与が繰り返されることが多いです。
治療が長期化した患者さんからは、病状は落ち着いたのに、腹の調子がずっと悪いという相談をよく受けます。とりわけ、抗菌薬関連下痢を一度経験した方では、その後も腸内環境が完全には元に戻らずIBS症状が不定期に繰り返される点には特に注意が必要です。

症状に応じて投薬される鎮痛薬、制酸薬等はかえって腸内環境を乱す“複合要因”になりうることもあります。実践ポイントは以下の通りです。

  1. 抗菌薬は「必要な時に、必要な期間だけ」
    必要時は血液検査や抗原の迅速検査を行い、ウイルス性を除外します。抗生物質を投与すべきは細菌感染だからです。いわゆるかぜや無症状の膀胱炎に対して漫然と広域抗生物質を漫然と使用しないことがとても重要です
  2. ターゲットを絞った治療選択を心がける
    抗菌スペクトルの狭い薬、短期、間欠的に使用することを心がける。
    ステロイド治療同様に、総曝露量をできるだけ減らす。
  3. 抗菌薬後のリカバリー治療期間を設ける
    プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌など)の短期併用はエビデンスがあります。治療後に腸内細菌がリカバリーできるようにプレバイオティクス(食物繊維、発酵性食材)を取り入れていち早く短鎖脂肪酸産生を促す。症状を認めいわゆる過敏性腸炎の状態になった際には低FODMAP食を取り入れる。
  4. 腸脳相関を整える
    睡眠不足・不安・ストレスはIBS症状を悪化させることが証明されています。
    睡眠、軽い有酸素運動、マインドフルネス、必要に応じた認知行動療法(CBT)を取り入れて痛み予期の不安サイクル(悪循環)を断つことも重要です。
  5. 併用薬も必要性を十分に考慮
    腸内環境の悪化につながる制酸薬の長期服用が本当に必要か?、NSAIDsの使用状況を確認して代替治療がないかを検討する。必要性に応じてこれらの薬剤の投与期間、用量の見直し、可能なら減量・中止を計画する。

抗菌薬は当たり前ですが適正に使用して、使用後の腸内環境の立て直しまでデザインするのが投薬した医師の責任とも言える時代に突入していると思います。