院長コラム
ウイルス感染流行期コラム3 スパイ映画と重なるHPV (パピローマウイルス)
舞台は子宮頸部の移行帯、あるいは扁桃陰窩の奥深く。
そこは一見、平穏な組織です。
見張りは多いけれど、抗原を取り込むために上皮はわざと緩くしています。
その隙を突いて、工作員A=HPV(パピローマウイルス)は密かに潜入します。
最初は目立ちません。
細胞と同じ振りをして、組織の規律を乱さない。
HPVは例えるなら、長期潜入型スパイです。
その後じわじわと設計図を書き換え始めます。
高リスク型のHPVが持つE6/E7という道具は、細胞の守護神であるp53やRbを排除する役割を担います。この機構は、組織のチェック機構を無力化する裏工作のようなものです。
さらにHPVは、時に宿主ゲノムに自らのDNAを統合します。
これはスパイが組織ファイルを改ざんして、内部の規則を都合よく変えるようなものです。
一度書き換えられた設計図は、元には戻りません。
組織の細胞は、無限に分裂を繰り返し、気づけば全体を乗っ取るがんとなります。
免疫担当細胞もこの間しっかり役割を果たしています。
しかしHPVは実に巧妙です。
陰窩や子宮頸部移行帯といった免疫の盲点に潜み、時に酵素によるDNA修飾を逆手に取って、突然変異を積み上げていきます。まるで敵からの暗号解読装置を逆利用するスパイのように組織を乗っ取ります。
HPVの怖さは、静かに裏切るところにあります。
痛みも熱も出さず、発見したときにはすでに組織を深く蝕んでいる状態です。
スパイ映画に例えるなら、誰もが信頼していた参謀が最後に黒幕だと暴かれる瞬間に似ています。
次回は、もう一人の巧妙な工作員、HSV(単純ヘルペスウイルス)の戦略を描きます。
両者は全く別のタイプのスパイです。
片や、派手に炎症を起こして破壊を繰り返す工作と潜伏を繰り返すスリーパーセルです
同じ入口から侵入するのに、なぜこんなに行動パターンが違うのかを見ていくと、免疫担当細胞とウイルスのとてつもない駆け引きが理解しやすくなります。
それぐらい、人への潜伏感染をするウイルスって賢いです。
続きは次回のお楽しみです。