院長コラム

ウイルス感染流行期コラム4 スパイ映画と重なるHSV(単純ヘルペスウイルス)

HPVが「組織に潜り込み、静かに設計図を書き換える裏切り者」だとすれば、もう一人のスパイ=HSV(単純ヘルペスウイルス)はまったく違います。はHSVは短期決戦型の破壊工作員です。

初めて潜入したとき、HSVは粘膜の入口(口唇、外陰部、肛門)で派手に破壊活動を行います。
炎症、潰瘍、水ぶくれ。これはまるで建物の一角を爆破する行為なので、建物の中にいた免疫担当細胞が慌てて鎮圧に向かいます。
その混乱を乗じて、HSVの本隊は地下に潜伏します。
まるで映画のワンシーンの様です。
彼らの潜伏先は神経節(脊髄神経節・三叉神経節)です。

神経節は、免疫の捜査網が届きにくいシェルターのような所です。
ここでHSVは武器を捨てて破壊活動を一切やめます。HSVは発現をほぼ停止して、免疫担当細胞から姿を隠します、それは潜伏工作員が一般市民に紛れて暮らすシーンに似ています。

しかし平和が長く続くわけではありません。
ストレス、発熱、紫外線、免疫低下など環境が揺らぐたびに、潜伏していたHSVは目を覚まします。
そして再び粘膜にもどり、局所を炎症で焼き払う。こうして再発を繰り返します。

重要なのは、HSVは組織の設計図を書き換えない点です。言い換えると、HSVは細胞を破壊するががん化させたりはしません。その代わりに何度も破壊をくりかえして、痛み、潰瘍、時に後遺症(神経障害)を残します。

映画なら、HPVが「内側から組織を乗っ取る黒幕」だとしたら、HSVは「影の潜伏者」と言えます。
時折現れては混乱を巻き起こすが、最終的に政権を奪うようなクーデーターは起こさない。
ただしその繰り返しの破壊が、患者さん(宿主)にとっては大きな負担となります。

スパイ映画に例えるとHSVとHPVの違いがよくわかりませんか?