院長コラム
心理学からみるワクチン行動学 社会制度が心理を補う
私たち人間は、どうしても「目先の損失」を過大に恐れてしまいます。
副反応という一時的なリスクが、将来のがんや感染症を防ぐという大きな利益を上回って見えてしまいます。これを個人の意思だけで克服するのは困難です。そこで重要なのが「社会制度としての仕組み」です。
欧米の国々では、HPVワクチンやインフルエンザワクチンが「学校」「地域」「職場」単位で提供されます。つまり、本人や親が一から判断するのではなく、社会全体で接種の流れをつくり、心理的ハードルを下げているのです。
オーストラリアでは、思春期の生徒にHPVワクチンを学校で一斉接種した結果、子宮頸がんが将来“根絶”できると期待されるほど劇的に減少しました。米国では大学進学や就職時にワクチン接種証明を求める制度もあり、「打つのが当たり前」という文化が自然に根づいています。
一方日本はどうでしょうか?。
ワクチン接種は自己責任に委ねられがちで、予約や費用の壁も大きく、結果として接種率は低迷します。過去に国が積極的勧奨を中止した過去の影響もあり、人々の不安を制度が吸収できなかったのです。
つまり社会制度は個人の心理的バイアスを補う役割を果たすべきなのです。
人間が「遠い将来よりも近い副反応を重く見る」生き物である以上、それを前提に仕組みを整える必要があります。
日本では特に今後も①学校や職場での集団接種②費用の公費負担拡大③接種証明を社会活動の一部に組み込むといった工夫が必要です。
ワクチン接種を、個人の自己責任、意思決定、企業や医療者からの啓蒙活動などに頼らない、社会の中で当たり前になる仕組み化がとても重要だと思います。