院長コラム

耳鳴りの謎-耳鳴りはなぜ更年期に多く、老年期に少ないのか

診療をしていると耳鳴りは高齢者よりも、更年期以降の中年女性に多いという不思議な現象が見られます。耳鳴りは、老化現象というよりも身体が変化する時期に現れる過性の現象と考えられています。

加齢性難聴は「静けさのストレス」から始まる

人間の聴覚は40代後半から徐々に高音域が聞こえにくくなります。
このとき脳は、欠落した音域を補おうとして、聴覚神経を過剰に働かせます。この現象こそが耳鳴りの出発点です。音の入力が減る → 脳が静けさを埋めるように内部に音を作るようになります。
耳鳴りは沈黙を嫌う脳の反応とも言えます。

なぜ更年期に多いのか

加齢による聴力変化に加えて、女性では40〜60代にかけて、ホルモン(エストロゲン)と自律神経の不安定になります。エストロゲンには①血流を保つ②神経の興奮を鎮める③ストレスをやわらげるという働きがあり、ホルモンが減少することで耳鳴りが発症しやすい時期になるのです。

老年期になると、なぜ減るのか

老年期には加齢性難聴がさらに進行し、聴覚神経の活動そのものが低下します。
この時期になると、脳は神経の静けさに慣れ、諦めて耳鳴りは感じにくくなります。

耳鳴りは「五十肩」に似ている

五十肩は、関節や筋肉のバランスが一時的に崩れて起こります。炎症と痛みが強い時期を経て、体が新しいバランスに慣れると自然に落ち着く。文字通り、50代症状に苦しんだ人が、60代になると何もしていないのに症状が気にならなくなります。

耳鳴りも同じく、聴覚や自律神経のアンバランスの過程で生じるリモデリング現象(一種の適応障害)
時間をかけて脳が適応して、無理に音を作る必要がなくなると症状は自然と消えていきます。

実際に耳鳴りを自覚していた人の約70%が5年以内に軽快または自然消失すると報告されています(日本耳鼻咽喉科学会・疫学調査)。

長生きの人ほど、耳鳴りが治る理由

人は加齢とともに感覚入力が減少して外界の変化を過剰に意識しない脳へと再構築されていきます。
この再構築により耳鳴りが残っていても気にならなくなります。

耳鳴りは「加齢減少」ではなく、「適応の通過点」

耳鳴りは、体の変化に慣れようとする脳の適応反応です。
五十肩が自然に治るように、耳鳴りも時間をかければ自然と治っていきます。脳内での音との共存を受け入れられるようになる脳って本当にすごいと思います。