院長コラム
耳鳴りの謎 耳鳴りは治らないのではなく、やがて気にならなくなる。
耳鳴りは治らない場合もあるが、時間とともに“気にならなくなる”方がほとんどです。
実はこの「慣れる」という現象こそ、耳鳴りの治療の核心なのです。
なぜ治らないと言われるのか
耳鳴りは、耳の奥で実際に鳴っているわけではありません。
多くの場合は、聴覚神経の興奮を脳が音として認識している状態です。
したがって、耳鳴りを“消す”ための薬は存在します。最も重要なのは、脳は「音を感じなくする」能力を持っているということ。
慣れる脳の働き ―
私たちの脳は、繰り返し入る刺激を「重要でない」と判断すると、その信号を徐々に無視するようになります。
例えば、時計の針の音、冷蔵庫のモーター音、エアコンの風の音。
最初は気になりますが、数分後には意識しなくなります。
耳鳴りもまったく同じです。
最初は不快で不安を引き起こしますが、
「この音は命に関わらない」と脳が理解すると、
扁桃体(不安中枢)と聴覚野の結びつきが弱まり、
音は次第に“背景の一部”として扱われていきます。
これが、耳鳴りが“治らなくても気にならなくなる”理由です。
「気にすると悪化する」のは本当
耳鳴りの悪循環は音に気づく → 不安になる → 扁桃体が反応 → 聴覚野が興奮 → 音が強く聞こえるという負ループです。耳鳴り音を完全に消そうとするほど、脳はその音を“危険信号”として追いかけてしまいます。「あまた鳴ってるな。まあいいか」と受け流すことが、脳のハビチュエーションを促す一番の方法なのです。
“慣れ”を早める3つのアプローチ
音を消さず、別の音で“中和”する
→ ホワイトノイズ、環境音、自然音などを静かに流す。
耳鳴りを“孤立させない”ことで脳が落ち着きやすくなります。
安心できる習慣を持つ
→ 睡眠、軽い運動、深呼吸。体を緩めることで聴覚過敏が緩和します。
不安を抱え込まない
→ 「これは危険な音ではない」と理解することが、治療の第一歩です。
心理療法やTinnitus Retraining Therapy(TRT)も、この“脳の再教育”を目的としています。
治らない=終わりではない
耳鳴りは、脳が「自分を守ろう」として生じた信号です。だからこそ、治らなくても共存はできる。
そして多くの人が、ある日ふと「そういえば、気にならなくなった」と感じるようになります。
耳鳴りと上手に付き合うには音を消すのではなく、音の意味を理解して受け入れることが重要です。