院長コラム
突発性難聴 ストレス社会では心の負荷が耳に現れやすくなる
突発性難聴と診断される患者の中には、強い精神的緊張や慢性的な疲労がきっかけで発症するケースが少なくありません。
耳の奥にある内耳(蝸牛)は非常に繊細な器官で、わずかな血流の変化や自律神経の乱れによっても機能が低下します。強いストレスや不眠が続くと、交感神経が優位になり血管が収縮します。
その結果、内耳への血流が減少し、酸素と栄養が不足して聴毛細胞がダメージを受け、突然の聴力低下を引き起こすことがあります。
またストレスによって副腎皮質ホルモンの分泌が乱れ、免疫反応や炎症の制御が不安定になることも知られています。これにより内耳での微小炎症が増悪して、回復を妨げる要因となります。
うつ状態や自律神経失調が背景にある人では、耳鳴りや耳閉感などの症状を伴うことが多く、心理的要因と身体的要因が絡み合った「心身耳症候群」と呼ばれる状態に近くなることがあります。
実際、突発性難聴の患者の約3〜4割に心理的ストレスや睡眠不足が関係しているという報告もあります。
ストレスが長期間続くと、血流やホルモンの変化だけでなく、聴覚を司る脳の神経伝達にも影響します。脳の報酬系や扁桃体の過活動により、耳鳴りを実際より強く感じたり、音への感受性が過敏になることがあります。こうした状態が長引くと、耳の機能そのものは回復しても「聞こえにくい」「耳鳴りが気になる」といった症状が残ることがあります。
治療としては、内耳の炎症や血流障害に対してステロイドや血流改善薬を用いるほか、ストレスや不眠の改善も欠かせません。十分な睡眠、規則正しい食事、軽い運動などで自律神経のバランスを整えることが、再発防止にもつながります。心理的ストレスが強い場合は、心療内科やカウンセリングの併用が効果的です。突発性難聴は耳だけの病気ではなく、心と体の両面からのアプローチが必要な病態です。
耳の不調は「限界が近い」という体からのサインでもあります。忙しさや人間関係の緊張を抱え込みすぎず、少し立ち止まって自分を休ませることが、耳と心の回復への第一歩です。