院長コラム

特発性難聴 聴力が戻る人と戻らない人

突発性難聴はではある人は数日で聴力が戻り、ある人は治療をしても聞こえが回復しないままになります。この「差」はいくつかの要因が関係していることがわかっています。

まず最も大きいのは、治療までの時間です。内耳の血流障害や炎症が起こってから時間が経つほど、音を感じ取る細胞(有毛細胞)が回復不能なダメージを受けてしまいます。発症から48〜72時間以内に治療を開始した人では回復率が高く、1週間以上経過してから受診した人では聴力の改善が限定的であることが多いと報告されています。

次に重要なのが発症時の重症度です。
聴力が全体的に大きく落ちた場合や、全周波数にわたる難聴で始まった場合は、部分的な改善にとどまる傾向があります。逆に、低音や高音の一部だけが聞こえにくい軽度のタイプでは、比較的良好な経過をたどることが多いとされています。

年齢や基礎疾患も回復度合いに影響します。
高血圧、糖尿病、高脂血症など動脈硬化性病変があると、内耳の微小血管が硬くなり、酸素の供給が十分に行われにくくなります。その結果、内耳の組織が回復しにくく、聴力の戻りが遅れることがあります。これらに加え慢性的な睡眠不足、過労、ストレス、喫煙は内耳の血流を悪化させ、ステロイド治療の効果を下げることがあります。

さらに最近の研究では、突発性難聴の回復度合いに「遺伝的要素」や「免疫反応の違い」が関係している可能性も示されています。自己免疫の反応が強い人では内耳の炎症が長引き、ステロイドへの反応が乏しいことがあります。

治療は主にステロイド薬を中心に行われますが、近年は点滴や内服に加え、鼓膜を通して薬を直接内耳に届ける鼓室内注射も行われています。これにより、全身への副作用を抑えながら高濃度の薬剤を内耳に届けることができます。

突発性難聴は血流、免疫、ストレスなど複数の因子が交わる病気です。十分な睡眠とストレスコントロールを心がけることは、残った耳鳴りや聴力の安定にも役立ちます。
早期発見・早期治療、生活習慣の見直しが聴力を守るために必要です。