院長コラム

不眠症(眠くなると手の平が温かくなるのはなぜ?)

寒い季節、なんだか眠気に襲われるという方も多いのではないかと思います。

ひとは眠くなると手のひらがあたたかくなります。小さい子供さんがいるご家庭はよくわかると思いますが、子供はその傾向が顕著です。

この手のひらの暖かさは、入眠前に深部体温と表面体温を同じぐらいに調整するために、手の先に存在する動静脈吻合(AVM)から熱放射がおこなわれているからです。

心臓から送り出された血液は、太い動脈から末梢の毛細血管まで運ばれて、静脈を通って心臓に戻っていきます。毛細血管に枝分かれする前の動脈と静脈とを直接つなぐやや太い血管を動静脈吻合(AVM)と呼びます。AVAは、皮膚では手足の末端、顔の一部だけに存在する特殊な血管です。手の場合、甲側にはなく、手のひら側に存在しています。その他の部位では、足では足裏と指、顔では耳、まぶた、鼻、唇と、皮膚の薄い末梢側に多く存在しています。拡張した直径は毛細血管の約10倍で、流体力学的に血流は1万倍にもなります。

毛細血管は細胞に酸素や栄養を運ぶのが主な役割ですが、AVAは体温調節が主な仕事です。体の中心部分から熱の奪われやすい末梢部分へ血液を集めて、熱を放散するシステムです。外気温度が下がり寒くなると脳や心臓など生命維持に必要な体の中心部温度を保つために、AVAは収縮させ血流を減らしことで、熱放散を防ぎます。冬に手先や足先が冷えて困るのは熱を逃がさないようにして命を守るためです。

ヒトの皮膚体温は「日中は低く、夜間に高くなる」逆に、深部体温は「日中高く、夜間に低くなる」と言われています。通常、深部体温は皮膚体温より最大2℃ほど高くなっています。手先より熱放射を行うことで、皮膚体温と深部体温の温度差が縮まります。この温度の落差が良質な眠気を誘うことになります。

良質な睡眠のために、就寝2時間までにお風呂をすませようと書いてあるのもこの温度落差をつけるためです。入浴すると深部体温が上がります(15分湯船につかると最大0.5℃ほど上昇)。人間は上がった深部体温を元にもどそうとしますので、この落差で約2時間後には深部体温が下がり眠気がくるようになります。

人間の体ってよくできていますね。