院長コラム
潰瘍性大腸炎 クローン病の疾患活動性の評価(バイオマーカー)
潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんは、再燃(病気の活動が活発になり様々な症状が出ている状態)と寛解(病気が安定して比較的症状が少ない状態)を繰り返します。内科治療の目標は、日常生活の妨げになるほどの症状を出さないようにできるだけ長く寛解を維持することです。特に潰瘍性大腸炎は悪くなる時は一気に悪くなるので、その前兆をできるだけ早く捉えて少しでもその傾向が疑われる時は治療法を速やかに変更する必要性があります。
活動性の評価する検査として、血液、便、内視鏡で採取できる検体用いた検査があります。
粘膜の炎症を直接見ることができる大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、病気の再燃を予想して、長期の寛解維持と密接に相関する粘膜治癒の状態を知る意味でとても重要な検査方法です。特に大腸炎関連発癌の存在をチェックするために定期的な大腸内視鏡検査が必要です。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、前処置として食事制限や腸管洗浄のための2リットル下剤の服用が必要です。程度の差はありますが内視鏡検査は検査前も検査中も苦痛を伴うこともあるため、受ける方への負担が大きい検査であることは事実です。
生体内の物質のうち病気の存在や治療によって変化して、病気の指標となるものバイオマーカーといいます。バイオマーカーを測定することで、病気の存在、程度、治療効果を推し量ることができます。
バイオマーカは主に血液や便検査で把握します。患者さんにとっても負担の少ない検査で、医療者も適切な判断をすることができます。
当院外来でよく測定しているバイオマーカーについて
(血液)CRP
利点は、院内ですぐにわかる、簡便かつ迅速な検査です。
CRPは肺炎球菌関連の蛋白として発見されました。肝臓で合成されるタンパク質で、半減期が19時間と短いため、急性炎症を評価するツールとして汎用されています。肝臓でIL-6というサイトカイン(伝達物質)が誘導されると上昇します。
欠点は炎症性サイトカインが肝に運ばれなければCRPは上昇しません。例えば頭蓋内の炎症、腸局所で起こる炎症などは、どんなに悪くてもサイトカインが肝まで運ばれずにCRP上昇しません。また感染症、他の炎症性疾患でも増加するため特異的なバイオマーカーとは言えません。
(血液)LRG:Leucin rich α2-glycoprotein
関節リウマチの患者さんで、疾患活動性を見るために同定された新規の血清マーカーです。
潰瘍性大腸炎、クローン病患者さんでも、臨床的活動性や内視鏡的活動性と相関することが報告されています。
LRGはTNFα、IL-22といったIL-6以外のサイトカインで引き起こされる炎症でも上昇するため、CRPが正常範囲内(CRPでは病状が正確に評価できない)症例における活動性評価に有用とされています。
(便)カルプロテクチン
白血球の一種である好中球に由来するカルシウム結合タンパクで、カルプロテクチンは腸管壁内に浸潤した好中球量と比例することが知られています。
このため腸管局所の炎症を直接反映する特異的バイオマーカーです。
採血と違って侵襲は少ない(痛くない)ですが、専用容器に便を採取して持参する手間はかかります。