院長コラム
ウイルス感染流行期コラム2 スパイ映画と重なるウイルス侵入、スパイはどこから入るのか?
映画のプロローグのごとく考えてみよう。
暗闇の港に、小さなボートが忍び寄る。
岸には見張りの灯がある。要塞は堅牢だが、どういうわけか「裏門」や「物資の出入り口」が存在する。人体も同じだ。皮膚は厚い壁だが、咽頭の扁桃や子宮頸部の移行帯、肛門管や尿道口のような“出入口”は、わざと隙を作っている。ここがスパイ(ウイルス)にとっての侵入口だ。
このシリーズでは、二人の“工作員”を描く。
一人目はHPV(高リスク型)。
表向きは無害に振る舞い、長く“組織内”にとどまって設計図を書き換える。
仲間(細胞)のルールをすこしずつ改変して、最終的に組織を内側から壊す裏切り者だ。
映画で言えば、表情は優しく、上層部から信頼を得ているが、いずれ要塞を乗っ取る黒幕である。
二人目はHSV(単純ヘルペス)
こちらは別タイプのスパイ兼破壊工作員だ。
潜入したらすぐには目立たないが、神経の奥底に隠れている。
ある日突然、爆発的に姿を現し、表面を焼き尽くす。
即効で傷を残し、治癒後もしばしば“後遺症”という形で被害の痕跡を残す。
映画なら、潜伏期間が長く、必要な時に一撃で任務を遂行する“スリーパーセル”だ。
重要なのは、この二人のどちらがより“悪い”かは単純には言えないことだ。
HPVは「静かだが致命的」で、HSVは「派手だが局地的」。どちらも要塞の“構造”を逆手に取り、免疫という防諜チームの盲点を突く。私たちの次回以降の任務は、この二人の手口を映画の場面のように追体験し、なぜ結果が違うのか(がん化 vs 再発・後遺症)を解き明かすことだ。
次回は、工作員A:HPVの詳細プロファイル
彼(あるいはそれ)がどのように潜入し、どのようにして「組織の設計図」を書き換えるのかを記載します。潜入捜査に同行するつもりで読んでみてください。
きっと映画のワンシーンが、免疫学の教科書よりずっと鮮烈に見えてくるでしょう。