院長コラム

静かすぎる環境が不安になる理由

都市部で生まれ育った人は、常に一定の環境音(車や電車の走行音、空調の音、人の声)の中で生活しています。これらの音は無意識のうちに“安心な音”として脳に刷り込まれています

このため、音が完全に消えた状態=「異常な環境」として脳が警戒反応を示すことがあります。
生理学的には、扁桃体(恐怖・不安を処理する領域)と視床(感覚情報の中継点)が同時に活性化し、交感神経が高ぶった状態になります。
つまり、静けさそのものが刺激不足というストレスになることがあります。

聴覚過敏と環境因子の関係

聴覚過敏(Hyperacusis)は「音に対する耐性の低下」です
背景には環境要因と神経可塑性(脳の適応力)が深く関わっています。

要因影響のしくみ結果
都市騒音への長期暴露常に中程度の騒音にさらされると、脳が「背景音の多い環境」を“基準値”として学習静かな環境では「異常に静か」と感じ、不安が生じる
ストレス・睡眠不足自律神経の緊張が続き、聴覚野や扁桃体が過敏化普段気にならない音が“うるさい”と感じる
環境変化(転居・旅行など)周囲の音が変化し、予測不能になる聴覚的安全感が失われ、不快感が強まる
加齢や感音難聴一部の周波数帯を聞き取りにくくなることで、他の音への感度が上昇「特定の音だけが響く」ように感じる

対処ポイント

  • 自然音(波、雨、鳥の声など)や環境音を小さく流す
  • 就寝前に静かすぎないBGMを一定リズムで聴く
  • ノイズキャンセリングではなくノイズ・コントロール

完全な静寂を目指すのではなく、「落ち着く音」を選ぶことが大切です。
脳にとって安心できるのは、「慣れた音」と「予測できる音」です。
完全な無音ではなく自分でコントロールできる静けさが理想といえます。

医学的な視点から

聴覚過敏は単なる耳の問題ではなく、脳と環境の適応バランスの乱れです。
都会の環境音に慣れた人にとって、静寂はむしろ不安を誘う自然な現象。
この状態を病気ではなく、むしろ音への個性と考える方が現実的です。