院長コラム
特発性難聴 ― 本当に原因不明?
特発性難聴(突発性難聴)は、ある日突然片耳の聞こえが悪くなる病気で、耳鳴りや耳のつまった感じを伴うことが多い疾患です。
診断名の「特発性」とは、原因が全くないという意味ではなく、現時点の医学では特定できないという意味に近いと考えられています。
突発性難聴は明らかな外傷や中耳炎、薬剤性の難聴、腫瘍などが除外された上で診断です。
研究の進歩によりいくつかの要因が関係していることが分かってきました。
内耳の血流障害は代表的な要因のひとつで、内耳は非常に細い血管で栄養を受けており、ストレス、睡眠不足、動脈硬化などによって一時的に血流が滞ると、音を感じ取る細胞がダメージを受けると考えられています。
感染は一番関係していると考えられており、特に単純ヘルペスやムンプスウイルスなどが聴神経に炎症を起こして難聴を引き起こす場合もあります。さらに免疫反応の異常により、自分の内耳を攻撃してしまう自己免疫性内耳炎が突発性難聴と重なっている例もあります。
近年では精神的ストレスや自律神経の乱れが引き金になるケースも注目されています。
ストレスによって血管が収縮し、内耳への血流が減少するためです。
このように、突発性難聴は単一の原因で起こる病気ではなく、複数の要因が重なって発症する多因子性疾患と考えられています。
聴力が回復する人と後遺症が残る人の違いにはいくつかの要素があります。
発症から治療開始までの時間は特に重要で、48〜72時間以内に治療を始めるほど回復率が高いと報告されています。初診時の聴力が重度であるほど、回復は難しくなります。
高血圧や糖尿病など血管障害のリスクがある方では、内耳の血流障害型突発性難聴を起こしやすく、治りにくい傾向があります。慢性的なストレスや睡眠不足などの生活要因も、回復の妨げとなることがあります。
治療の中心はステロイド薬で、炎症や浮腫を抑える目的で内服、点滴、あるいは鼓室内注射が行われます。血流改善薬やビタミン製剤を併用することもありますが、完全に聴力が戻る人は全体の3割程度とされ、残りは部分回復または固定にとどまります。
聴毛細胞が不可逆的に損傷していたり、神経まで障害が及んでいる場合には回復が難しいと考えられています。さらに、突発性難聴と診断されても、後に別の病気と判明することもあります。たとえばメニエール病の初回発作や、聴神経腫瘍、自己免疫性内耳炎、ウイルス性神経炎などです。
したがって突発性難聴と診断された後も、数週間から数か月後にMRIや聴力検査を再評価することが望ましいとされています。突発性難聴は「原因不明の突然の難聴」と説明されることが多いですが、実際には血流、ウイルス、免疫、ストレスなどが複雑に関わる病気であり、単なる偶発的な発症ではありません。早期治療と生活リズムの改善、ストレスケアが回復を左右する重要な鍵になります。